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暗い牢獄の中、ティアはひとり座り込み、ただ全てを拒むように顔を伏せていた。

どうしてこんなことになったのか、ティアには分からなかった。
正確には、既に幾度も突きつけられたそれを、理解することを拒んでいた。

今まで身に纏っていた神託の盾騎士団の軍服とも、信奉者から贈られた何時か憧れたナタリアのそれのようなドレスとも違う粗末な衣服。
誇っていた、またユリアと同一視するような称賛を受けていた聖女ユリアから受け継いだ譜歌を封じる首輪。
ティアの未来を表すように暗く、陰鬱な雰囲気の牢獄。

その全てがティアに現状を突きつけていたけれど、それでもティアは認めたくなくて、暗い予感が脳裏に浮かぶ度に、伏せた顔を手で覆い、いやいやをする幼児のように頭を振り続けた。

上手くいっていると思っていた。正しいことをしていると思っていた。明るい未来を確信していた。

それなのに、どうしてこんなことになったのか。


新総長を追い落としてティアを新しい神託の盾騎士団総長に、そしてティアの後押しでアニスを初の女性導師に。

そう目指して新総長ディートリッヒ・フォン・シェーンベルクへの敵意を露わにしたティアとアニスに、味方する者は沢山現れた。
それはティア派やアニス派というよりも、外部から選ばれ、幾つもの改革案を打ち出しているディートリッヒに反する者達が集まったものであったが。
キムラスカやマルクトからではなく教団内からの総長候補を求め、さりとて騎士団員の信望の厚いカンタビレを担ぐことも、穏健派の信望の厚いトリトハイムの協力も得られなかった彼らにとっては、称賛と羨望を向けられる血筋や功績を持つ彼女たちは、ディートリッヒの対抗馬として適格だと思えた。

ユリアシティ市長の義孫にして、ユリアの子孫としてユリアと同一視されつつあった、ユリアの譜歌を操る美しき音律士ティア・グランツ。
最後の導師イオンを献身的に守護し、深い信頼を受けていた導師守護役アニス・タトリン。

ユリアシティの復権と自分の保身のためにもテオドーロが喧伝していたティアの美名と、アニスの初の女性導師という望みのためにもティアが喧伝していたアニスの美名。

加えてティアが自分を褒めそやす声に弱く、信奉者のような態度をとって接すれば言うままに動かせるのも、有能さよりも担ぎ易さを求める彼らにとっては美点に映った。

時にはユリアを思わせる聖女のような装いで、歌手のように歌を披露させてユリアとの同一視を煽り、時には王女のように美しく着飾らせ、称賛を浴びせてティアの機嫌を取りながら、信奉者を次々に増やしていった。

それはティアの元々の自惚れやわがままさを更に増長させ、ユリアとの同一視と信奉者の増加は、ティア自身の心の底にあった自身とユリアの同一視や陶酔を更に肥大化させていった。


やがて教団内は、祖父と派閥の者や信奉者の支援によって出世していくティア・アニス派、ディートリッヒ派、そして中立のトリトハイム派の三派へと分かれていった。
トリトハイム派は幾ら働きかけても中立を保っていたが、それもディートリッヒをどうにかすればティアやアニスの味方になると思っていたし、ディートリッヒも、ディートリッヒなどに味方する者達も侮っているティアとアニスは、着々と望む未来に向けて進んでいるつもりだった。


※アニスのスパイやイオンの死への関与などの過去の罪は周りには知られていません。







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