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キムラスカから、ナタリア王女殺害、あるいは遺棄致死の疑いをかけられている。

教団の有力者が集まった会議の席でディートリッヒがそう口にした時、ティアはアニスと共に何を馬鹿なことを言っているのかと失笑を漏らした。
何時もディートリッヒの意見に対してそうしてきたように侮蔑を露に、愚かな子供を叱るような眼で睨みつけて。

ディートリッヒは今までにも会議の席で様々な改革案や、キムラスカ、マルクトとの外交に関わる意見を出していたが、
ティアはその内容よりも、貴族のお坊ちゃんで、かつ自分への気遣いも説教に従う態度もとらないディートリッヒへの反感と、その度に自分の支援者や信奉者がディートリッヒの案に反対し、ティアへの称賛とディートリッヒへの侮蔑を交えながら聞かせてきたために、ディートリッヒの意見など世間知らずなお坊ちゃんの戯言と、反対し、見下し、矯正すべきものだという見方をますます頑なにしていた。

「何言っているのよ、ナタリアは生きているじゃない。突然馬鹿なことを言わないで頂戴」

ルークと同じようにティアやアニスを避けるようになったナタリアとはもう長く会ってはいなかったけれど、それでも元気にしていることは知っているし、つい先日キムラスカ貴族との婚約の噂を──アッシュではなく別の男性で、ティアはやはり政略結婚の悲劇ととって、怒りと侮蔑とナタリアへの同情を感じただけだった──聞いたばかりだったから。
しかしティアとアニス以外の列席者は亡くなったナタリア王女という人物が別にいることに直ぐに気付き、一様に顔色を悪くすると、まさかモースが、そういえば出産の時に預言士を、乳母の犯行も唆して、と呟いて、誰もが笑いとは程遠い反応を示した。

「方々がご推察の通り、ND1999年に産まれて直ぐにすり替えられた、亡くなったナタリア王女の方ですよ」

それでもティアとアニスには意味が分からず、何を馬鹿なことを言っているのかという態度を崩さなかった。
ナタリアとすり替えられた王女のことは二人も知ってはいたが、死産で亡くなったという王女の殺害や遺棄致死の疑惑など、何故教団がかけられなければならないのかと。

そのあからさまに自分を見下した態度にも、ディートリッヒは臆することもなく、二人の態度など頓着しないというように動揺の欠片も見せなかった。

ディートリッヒは二人に、特にティアに対しては何時もこんな態度で、それが出会った頃の自分の顔色を窺いもしなかった失礼で無神経で、わがままだったルークを思い出させ、また自分の顔色を窺って怯えるようになった頃のルークと同じように矯正しようという熱意に拍車をかけていた。

「出産に立ち会い、直後に追い出された医師団、すり替えた乳母や預言士からの聞き取り調査でも、ナタリア王女の出生時の生死は判明しておりません。産声が上がらなかったとは言っていましたが、赤子は産声を上げないこともあり、呼吸が止まっているような状態であっても医師の適切な処置で蘇生することもあります。現に、出生時に産声も呼吸もなかったというファブレ公爵夫人は医師団の措置で蘇生して、成人もされている。ナタリア王女出生時には、医師団は直ぐに乳母と預言士に追い出され、生死の確認も、救命措置も行っていません。しかも、ナタリア王女は直ぐに袋に入れられて地面に埋められたということですから、呼吸はあったのに、生きて産まれていたのに、拘束と生き埋めのために窒息死したという可能性もある」

「でも、秘預言に死産と詠まれていたはずでしょう?だったら死んでいたに決まっているじゃない!そんなの邪推だわ!モース様は、行き過ぎてあんなことになってしまったとしても、人類の繁栄を祈っておられたのよ。そんな、赤ん坊を手にかけるだなんてあまりにも酷い疑いだわ!!」

「そうですよ~だからモースも、ナタリアとすり替えたんじゃないんですか~。ナタリアのお婆さんだって、預言だと言われたから従ったんでしょう?」

ディートリッヒ派のみならず中立のトリトハイム派までが顔を顰めて二人を見ていることにも気付かず、ティアは未だに上司だった──といってもそれほどの親交があったわけでもないはずだが──モースを庇い、疑惑を頭ごなしに否定した。

モースが預言のために多くの人々を見殺しにしてきたことを分かっていると言いつつも、口だけで内心では考えが浅いのか、それともモースを盲信し導師に口答えしてまで庇っていた過去の自分を否定したくないのか、ティアは未だに何かとモースに好意的な評価を口にすることがあった。

自分自身の行動や他人から向けられる感情に、明確な罪や危害へのものにすらも自覚的でないティアには、他人の罪や他人への気持ちなどそれ以上に遠く、たまに考えることがあっても表層的な見方が精々で、深く考えることなく過ごしていた。

「さあ、秘預言とて詠まれていたのは何処までなのか・・・・・・。乳母は譜石を見せられた訳ではなく預言士にそう言われただけと、預言士もモースにそう言われただけでという供述で、どちらも直接譜石を確認してはいないし、過去の秘預言に関わる譜石の多くはモースの管理にあったのが散逸してしまっているので、確認のしようがありません。すり替えの秘預言はあったとしても、すり替えられるとだけ詠まれていたのか、死ぬとも詠まれていたとしても死因は何なのかが判然としないのでは、モースの命令で預言士が殺害した疑いも、救命措置をとらなかったことで死亡したり、拘束と生き埋めのせいで窒息死した疑いも到底払拭できません。ND2018年、キムラスカは第三王位継承者殺害を名分にしてマルクトへ宣戦布告しています。キムラスカ王女殺害、あるいは遺棄致死。疑惑であっても、王族殺害や致死の重大さは語るまでもありますまい。まして命令したモースは、目的のためなら手段も犠牲も厭わないことが、数々の惨禍を起したことで明々白々なのでは、他の事件でも幾らでも、そう無事に産まれた赤子の殺害や遺棄致死も奴ならばやりかねない、そう思われるでしょうな」

ティアとアニスを除いた列席者はディートリッヒに頷きを返し、次々にキムラスカへの賠償と戦争回避への方策を話し合い始めた。
まだ納得していないティアとアニスも、こうなってはそれ以上異論を唱えるのは難しかったが、それでも反目しているディートリッヒの言う通りにするのが癪なティアは唇を噛むと、隣席していた青年に視線を移す。

「速やかに謝罪と、賠償を行うことでなんとか宣戦布告は回避するしか・・・・・・」

「しかし、賠償と言っても今の教団の財政状況では・・・・・・」

「キムラスカ国内には教団や神託の盾騎士団の領地が幾つもある。それを引き渡すことでなんとかならないだろうか」

「痛い損失だが、止むをえまい。今は何よりも戦争を避けるのが・・・・・・」

気に入らない、けれど反対も出来ない話が続く中、青年を見つめるティアの目は助けを求めるような色と、別の何かを求めるような熱を帯びていた。
青年はティア派に属する、というよりはティア信奉者のひとりで、ティアが最も信頼している相手だった。
淡麗な容姿と落ち着いた物腰、甘い響きの声で向けられる降るような称賛に、ティアは何時も胸を苦しいほどに高鳴らせていた。

青年はティアの顔色を気遣うように優しく見つめ返すと、小声で戦争回避のために賠償は仕方ない、ご不満でしょうがどうか今は御辛抱を、と甘い響きの声音で囁きかけた。

ティアはうっとりとその声音に耳を委ねた後、優しい視線を熱く潤んだ目で見返しながら頷いたものの、ディートリッヒへの反感は募るばかりで、せめてもの抵抗とばかりに、ディートリッヒを無言で強く睨みつけた。


そしてローレライ教団や神託の盾騎士団が所有していたキムラスカ国内の領地は賠償として割譲され、その領地は国王領や、功績を挙げた商人や技術者への報酬として新貴族領となっていった。

教団領や騎士団領といっても、海を隔てたパダミヤ大陸のダアトとは違いキムラスカ国内に位置するため、領民は心理的にも文化や言語的にもキムラスカに近く、派遣された官吏や新しい領主の統治が穏健だったためもあり、然程の反発も起きずにキムラスカ領へと馴染んでいった。






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