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※ティア、アニスの死ネタがあります。





「導師トリトハイム!」

バチカルの牢獄の中で鬱屈としていたティアは、教団のトップに立つ上司の訪れに、歓喜を浮かべて鉄格子まで走り寄った。
穏健派の信望が厚く、好意的とまではいかなくてもディートリッヒのように反目はしていなかったトリトハイムなら、てっきり自分を解放してくれるのだと、最初はそう思った。
しかし僅かに廊下を照らす明かりで見えるようになったトリトハイムの表情の想像とは違う暗さに戸惑い、またその表情のように暗い何かを突きつけられる予感に身体が震えた。
掴んだ鉄格子の冷たさよりも低く、心の芯を冷やされていくような気分になり、寒いのに鉄格子を掴む手はじっとりと汗ばんで滑りそうなほどだった。

「処刑される前の、せめてもの慈悲だ」

陰鬱な声音でトリトハイムが告げた言葉に、ティアは唇を戦慄かせ、震える舌を必死に動かそうとして呻くような声を漏らす。

どうして、そんなはずがない、これは何かの間違いです。
幾つもの言葉が脳裏に浮かんだが、付けられている首輪よりも強い力で締められているかのように、ひとつとして声に出せなかった。

「お前たちが考えている以上に、教団の状況は危うかったのだ。キムラスカやマルクトの寄進やケセドニアの関税の減少による財政難だけではない。未だに預言遵守を掲げる者、ユリアを盲信する者、預言を盾に世を動かしていた頃を忘れられない者、キムラスカとマルクトの預言離れに反感を抱く者、関税の旨味を取り戻すためにキムラスカとマルクトを再び戦争状態にしようとする者・・・・・・内部の危険分子を抑えるのももう限界だった。ただでさえキムラスカからもマルクトからも警戒されているというのに、何れ彼らが暴発してキムラスカやマルクトにまで被害が及ぶほどの騒乱を起こせば、二国を敵に回して攻め滅ぼされる恐れさえあった。そうなれば教団や騎士団のみならず、このパダミヤ大陸の民にまでどれほどの犠牲が出るか。それよりは例え弱体化してでも、教団を存続させ、戦禍から民を守り、キムラスカとマルクトの警戒を緩和する道を選ぶしかなかった。──例え領土の半分を失い、騎士団を失い、監視者領に見張られながらであっても」

最後の『監視者領』の意味はティアには理解出来ず、ただかつて監視者の街を名乗っていたユリアシティの情景が呆然とした頭に浮かんでは消えていく。
そして何時の間にか、ルークを見張ってやっていた時の、まるでルークの監視者のようなつもりでいた頃を思い出すが、かつてのような誇らしい記憶ではなく、この現状に繋がる苦い記憶になっていた。

「そのためには、教団の膿を絞り出し、改革に反対する者たちとともに纏める必要がありました。けれど纏まった派閥になれば、下手に動かれれば危うくもある。担ぎ出される人間は、有能であってはならない。真の人望があってもならない。洞察力も思慮深さもなく、自惚れが強く、思うように動かしやすく、一時的には信望を集められても暴かれれば失望されるような汚点を持つ二人は適役でしたよ。隠した所で証人も証拠も拭いようもなく残している罪、どうせ何れ暴かれるなら有効に活用させて頂きましょう」

トリトハイムの後ろから表れ、言葉の先を続けた青年に、ティアは悲鳴にも似た引き攣った泣き声を上げ、聞いた言葉を、全ての現実を拒もうとするかのように、髪が怪談の幽霊絵のように乱れるのも構わず、激しく首を振り続けた。

青年はティア派に属する、というよりはティア信奉者のひとりで、淡麗な容姿と落ち着いた物腰、甘い響きの声で向けられる振るような称賛に、ティアは何時も苦しいほどに胸高鳴らせていた。
それがティアの自身とユリアの同一視に拍車をかけ、反目するディートリッヒに屈さなければならない時のティアの慰めにもなっていた。

その青年が、最初から自分を愚か者と見做し、だからこそ利用するために担ぎ出したのだと気付いたティアは、自惚れも希望も、心に秘めていた甘い想いも夢も、全てを打ち砕かれた絶望感に狂乱した。

「お前たちが引き起こした数え切れないほどの問題には苦労させられたが、それでも最後には役に立ってくれたな。お前たちの死は、教団の存続と、世界の安定のために一役買ったのだ。処刑される前に、せめてもの慈悲としてそれを伝えておこう」

そんなことは望んでいない。嬉しくない。

私が望んでいたのは、もっと別の──あなたとの──

乱れた髪から覗く目を潤ませ、救いと慰めを求めるように見つめても、戦慄く唇から何時か伝えようと思っていた言葉を絞り出そうとしても、青年はティアの方を見ようとも言葉を待とうともせず踵を返し、ただの一度もティアを振り返ることなく、トリトハイムと共に牢獄を去っていった。


その数日後、キムラスカに引き渡されていたティア・グランツは、バチカルで処刑された。
猿轡をつけられて刑場に引き出されたティアは、最期まで誰かを捜す様に、群衆の中に必死に視線を彷徨わせていたという。

同日、マルクトに引き渡されたアニス・タトリンも、グランコクマで処刑されていた。
最初は言い訳を繰り返していたアニスは、かつての仲間ジェイド・カーティスから悪し様に罵られた後は自失したようになり、最期までそのままだったという。

そして賠償として、パダミヤ大陸西部の南半分がキムラスカ王国に割譲され、国王の直轄地となった。

既に隣接するマルクト皇帝直轄地の暮らしが伝わっていたため、領民の不安や反発も少なく、そして同様にインゴベルトの派遣した代官の穏健な統治と重税からの解放によって以前よりも格段に向上する生活のうちに、キムラスカ領になったことを喜びの内に受け入れていった。


──その二年後、神託の盾騎士団は解散した。
同年にキムラスカ国王の直轄地になっていたパダミヤ大陸西部の南半分は、キムラスカ王国に属する南パダミヤ辺境伯領に、マルクト皇帝の直轄地になっていたパダミヤ大陸西部の北半分は、マルクト帝国に属する北パダミヤ辺境伯領になり、元神託の盾騎士団総長ディートリッヒ・フォン・シェーンベルクはキムラスカからは南パダミヤ辺境伯へ、マルクトからは北パダミヤ辺境伯へ封ぜられた。
以後、二つのパダミヤ辺境伯領は違う国に属しながらも同じ領主に統治され、ディートリッヒの子孫は代々二つのパダミヤ辺境伯位を継承し、ローレライ教団の監視者としての役割を担うことになる。

軍事力を喪失したローレライ教団は穏健派のトリトハイム導師の下で改革が進められ、警備や防衛は神託の盾騎士団に代わって新設された警備隊と、隣接するパダミヤ伯から派遣された騎士たちによって行われるようになった。
過激派や預言遵守派の蠢動はその後も幾度となく続いたが、その度にパダミヤ伯と導師によって大きな騒乱は防がれ、世界は安定を保ち続けた。
長く続くキムラスカとマルクトの平和、共同での数々の研究開発によって、音素の減少や資源等の問題も少しずつ解決し、人々の生活は向上していった。

──やがてそれが、オールドラントの黄金時代を招くことになる。





※最終話でやっと題名の監視者に。
インゴベルトとピオニー、ディートリッヒの兄のシェーンベルク侯爵とピオニー側近のシャガール伯爵は、最初からディートリッヒをスパイ(&ヘッドハンター、ハロワ)に、そして将来は監視者にするつもりで送り込みました。
トリトハイムさんも最悪の事態を避けて教団を再建するためにディートリッヒと手を組んでいて、ティアの信奉者のふりをしていた青年はトリトハイムさんのスパイです。

マルクト貴族の母とマルクト皇女の祖母を持つディートリッヒが選ばれたのも、教団に両国との関係改善を匂わせるためもありますが、将来はキムラスカ王国に属する南パダミヤ辺境伯領だけではなく、マルクト帝国に属する北パダミヤ辺境伯領の両方を統治するのを踏まえて、キムラスカ、マルクトの双方と関係が深い人物を選んだからです。
ダアトから領土の半分を割譲させても、キムラスカかマルクトのどちらかだけに属するのでは一国が得をすることになるので更に半分に分け、違う国に属する二つのパダミヤ領主に齟齬対立が発生したり、その隙を預言遵守派に付け入られたり監視の役目に支障が出るのを懸念して、いっそ連携を優先してディートリッヒひとりを両方のパダミヤ辺境伯にしました。

キムラスカとマルクトの和平と預言離れは、ダアトの既得権益、それも二大財源の寄進と関税の減額と結びついているので、信仰だけではなく利欲の方でも、ダアトの不満と妨害は根強く残り、キムラスカとマルクトからの警戒、敵対、戦争、教団解体フラグにもなりかねないと思います。

仮にアニスが女性導師になったとしても、モースが行方不明の時にも仲間への相談などの現状打破の努力をしなかった所や、嘘を嘘と吐き通せないことなのにジェイドに黙ったまま同行して、バレた時の怒りをより大きくしそうな態度をとっていたのを見ると、アニスが教団の改革を無事にできるともダアトの危険分子を押さえられるとも思えず、むしろアニスが教団のトップに立ったら教団内部もキムラスカやマルクトとの関係も余計に悪化しそうです。
ジェイドはアリエッタとの戦いで「私にしてみればあなたこそ我が部下たちの仇」と言っていましたから、アニスがタルタロス襲撃の手引きをしたことを知れば怒りそうですし、あの仲間たちは色々と隠していることや知られていなかったから追及されなかったこと、真相とは違う誤解の上での認識、仲間やその部下や身内への危害や迷惑、更には「こっそり持ってっちゃえば大金持ちだね」のように真相を知った上で思い返せば罪悪感のなさを感じさせて怒りを煽るような言動も多々あって、仲間の関係も、一件仲良くなったように見えても表面だけ、裏は問題ありまくりで何時裏返るか分からないものに見えて、アニスが女性導師になったとしても仲間の協力が得られるか、などEDのその後の仲間の協力関係にもあまり希望が持てません。

ティアなんて序盤の時点で、もう制服で公爵家襲撃&王族攻撃、自分のみならず上司とダアトに外交問題フラグ立て、イオンに報告連絡相談せず上司とダアトのフラグ悪化、更にそのまま使者一行の一員のように同行することで和平と救援失敗フラグ立て、ルークに真摯に謝罪して反省した態度をとるようなフラグ回避行動もせず、逆に面罵や戦闘や要求でフラグ悪化、実際の関係を隠した上に弟や生徒を叱る姉のような態度でルークに接することで、周囲の人間までそう誤解したり雰囲気に流されかねない状況を作りルークにまでティアへの態度を姉や教師への傲慢や無神経のように誤解され悪印象を抱かれるフラグを立てまくりと山ほど不味いフラグ立て、悪化、周りへの波及をやっちゃっていますし。

アニスもティアも、ジェイドたちも、自分のみならず他人や仲間や主や国に不味いフラグを立てまくり、報告連絡相談も自分でフラグ回避に努力するでもなく隠したりなかったことのように流すだけで、そのうち自分でも忘却したのか更に不味い言動でフラグを悪化させるということが多かったので、EDのその後もその姿勢のままでいそうなアニスもティアも仲間も、フラグ回避には向かない気がします。

アニスやティア以外の人間がトップに立って、相当な荒療治をして膿を出し、キムラスカとマルクトからの警戒を解かないと、キムラスカとマルクトとの敵対や戦争、教団解体フラグ回避は難しくなりそうです。




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